界面の覇者! 幾原雄一教授


 第4回工学体験ラボの講師である、総合研究機構・機構長である結晶界面工学研究室幾原雄一教授の紹介です。顕微鏡がらみのキーワードを書き続けていましたが、これは幾原教授の研究を紹介したいがためだったんですね。幾原教授は、電子顕微鏡で、結晶界面の研究をしています。
 総合研究機構にある超高圧電子顕微鏡は、世界最高峰の0.1nm(1サブナノメートル、1オングストローム)の分解能を誇ります。そのスゴい電子顕微鏡を、今回の工学体験ラボでは見学しに行くことになります。
 「スゴイ電子顕微鏡」があるからといって、誰でも上に貼ったような画像をとることができるってものではナイ。私に「はい、使ってみなさい」と言われたってムリムリ。身近な人に、この画像を見せたところ「これだけのものを撮るのは『巧みな下準備、センスと熟練した技術』も必要じゃない?」とのこと。なるほどー。確かに、結晶界面工学研究室の設備一覧のページ錚々たる「TEM試料制作」の設備が並んでいることからも、それはわかりますよね。これらの下準備をした上で、やっと測定することができる、と。ちなみに、これは米一流学術誌、Science誌に掲載され*1、いろいろな新聞で取りあげられた研究結果です。

 この輝く黄色い点として観察されているのは、イットリウム原子です。私が初めてこの画像を見たとき「わあああ、一個の原子がこんなにキレイに見えるんですね」(←素人丸出しの感想)と言ったら、幾原先生は嬉しそうに微笑んで「すごいでしょ」と。クールな幾原先生のその姿はカワイイものが(失礼!)。この研究結果はもちろん画像がキレイなだけ終わっているのでなく、「アルミナ(酸化アルミニウム)に微量のイットリウムを添加すると、セラミックが強化される」という仕組みも解明しているのです、この結果は。
 アルミナ粒界イットリウム……と言われると、縁のないものに思われるでしょうが、酸化アルミニウムに別の原子を添加する……という繋がりとして身近なものはルビーやサファイアがあります*2。添加する物質が酸化クロムだとルビーに、酸化チタンにするとサファイアに。「混ぜもの」がないと、宝石にならないところが面白いですよね。

 すごく前に書いた文章なのでリンクするのもお恥ずかしいですが、かつてカソウケン(家庭科学総合研究所): 宝石の科学-結晶-としてそのあたりのことを書いたことがあります。もしよろしければ見てやってください。大幅に書き直してブラッシュアップした(つもりの)文章は、拙著カソウケン(家庭科学総合研究所)へようこそ (KS一般書)にあります(と、姑息な宣伝)。

*1:Science, 13, January, Vol.311, 212-215 (2006)

*2:悲しいことに、私にはちっとも身近ではありませんがっ。